大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和54年(ワ)6239号 判決

原告

大藪禮治

右訴訟代理人

小林清巳

被告

株式会社都南自動車教習所

右代表者代表取締役職務代行者

位野木益雄

右訴訟代理人

安藤一郎

長瀬有三郎

柏谷秀男

被告補助参加人

渡辺敏男

右訴訟代理人

山田有宏

吉田昭夫

田中俊光

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は参加によつて生じた部分を含め全部原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告主張の請求原因一及び二の事実は当事者間に争いがない。

二そこで、以下、本件各決議の効力についての原告主張の当否について判断する。

(一)  招集手続の瑕疵について

補助参加人は、その本人尋問において、本件取締役会の開催について取締役三本来守が原告に事前に電話連絡をした旨供述しているが、同供述は弁論の全趣旨に照らしてたやすく採用し難いところ、他に原告に対し本件取締役会開催について通知がなされたことを認めるに足りる証拠がないところからすると、本件取締役会は原告に対する招集通知を欠くものであり、その招集手続に瑕疵があるといわざるをえない。

しかしながら、本件取締役会当時の被告会社の取締役が原告、被告補助参加人渡辺敏男、三本来守及び竹田力の四名であつたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、本件取締役会は被告会社の右取締役四名中原告を除いたその余の三名の取締役が出席し、本件各決議はその出席取締役三名の全員一致をもつて可決されたものであること、本件取締役会は原告が他の取締役の意見を徴することなく被告会社名義をもつて中小企業金融公庫等から合計三億六、〇〇〇万円もの借入をし、しかもそのうちの相当多額な金員が使途不明であること等から原告の代表取締役を解任することを目的とし、その開催を決めるにあたつて被告会社の実質上の全株主と目されていた中山二郎を通じて原告を除いたその余の取締役三名の間において予め相談が取交わされ、原告の代表取締役を解任することについて事前の了解がなされていたことが認められるので、これらのことよりすれば、たとえ原告が本件取締役会に出席したとしても、右各決議の結果が左右されるとは到底考えられないところであるから、右招集手続の瑕疵は本件各決議を無効たらしめるものということはできない。

もつとも、成立に争いのない甲第三号証中には、右取締役会において取締役竹田力が原告の代表取締役解任について反対した旨の記述があるが、同号証の作成名義人たる証人竹田力も右取締役会において原告の代表取締役解任について反対したことはない旨証言しているので、右甲号証の記述は前示認定の妨げになるものではなくはないといわなければならない。なお、また、取締役竹田力は本件取締役会後原告と面談し、右甲第三号証を作成しているところからすれば、原告が本件取締役会に出席して意見陳述をしていれば、取締役竹田力は本件各決議に反対の立場をとり、原告の代表取締役の解任決議の点はさて置くとしても(この点については、原告は特別の利害関係がある者として議決権の行使が認められない結果、取締役竹田力が反対しても決議の結果に影響はないともいいうる。)、取締役たる被告補助参加人渡辺敏男の代表取締役選任の決議については、決議の結果に影響を及ぼすこともありうるやにみえないではないが、証人竹田力の証言によれば、右甲第三号証は本件取締役会後同証人が原告と面談した際、原告から前記中山二郎が同証人に対しても厳しい批判をしていると告げられて私憤を感じたこと及び原告から一応の詫もあり話合で解決したいので念書的なものでも送付してもらいたい旨依頼されたことから同証人が記載したものであり、同証人自身乙第一号証の取締役会議事録に署名する際には原告の代表取締役の解任はやむをえないと考えていた旨証言しているところよりすれば、原告が本件取締役会に出席して意見陳述をしたとしても、取締役竹田力が原告に同調し、原告の代表取締役の解任に反対し、ひいては取締役渡辺敏男(被告補助参加人)の代表取締役選任に反対したであろうということまでは到底考えられないところであるから、取締役竹田力が甲第三号証の書面を記載したことをもつて、前示認定の妨げになるものとみることもできないといわなければならない。

そうすると、この点についての原告の主張を採用することはできないといわざるをえない。

(二)  定足数を欠く瑕疵について

本件取締役会当時の被告会社の取締役が原告、被告補助参加人渡辺敏男、三本来守及び竹田力の四名であることは前示のとおり当事者間に争いのないものであるところ、本件取締役会は右取締役四名中原告を除いたその余の三名が出席していたことは前示認定のとおりであるから、本件取締役会は商法二六〇条ノ二所定の定足数を満しているものというべきである。

この点について、原告は、取締役竹田力は本件取締役会の開催に同意していなかつたから、本件取締役会は原告及び右竹田を除くその余の二名の取締役しか出席していなかつたものとみるべきであると主張しているが、証人竹田力の証言によつても右主張の事実は認められず、他の本件全証拠に照らしても原告主張の事実を窺せるものは全くない。

従つて、この点についての原告の主張もまた採用することができない。

三以上の次第であるから、原告の本訴請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用につき民訴法八九条、九四条後段を適用して、主文のとおり判決する。

(海保寛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例